評価と診断

2011年10月11日 20:52

お酒というものは不思議で、抑制をとるという作用がある。喜怒哀楽をそのままで生活すると日本社会ではなかなか適応できないが、一方、抑制で自分を押しこめ、病になることもあるのは確かだ。


今回のワイン会のテーマ食材は愛媛県西条市の里芋「伊予美人」そして信州中野産きのこ。信頼できる野菜ソムリエ・池田広美さんが手配してくれたので、今回の自分の「仕事」は少なかった。



信州中野産きのこの前菜(マリネ・パイ包み・フリッタータ)




なめこ入り里芋のポタージュ



信州サーモンと里芋のフライ



上田産ジャージー仔牛のブラザードきのこのフリカッセ添え

 


チーズを三種(ブルーチーズ・バジルチーズ・クミン入り硬質チーズ)




有機カポチャのブリュレ シナモンジェラート添え


このワイン会の間じゅう「評価」という事を考えてみた。自分がお金を払って「美味しい・美味しくない」をいうのは簡単だ。しかし報酬をもらって評価をするということは、発する評価が受ける評価となる、ということだ。

話は逸れるが「PSA」という前立腺がんのスクリーニング検査。かなり普及したがその有用性に「疑問・妥当性にかける」などとして、あれだけ普及したのにもかかわらず、一般的な検査で無くなっている。



医師になりたてのころ、病状説明をふたまわり以上も年上の患者さんに行っていたところ、「あなたには診断されたくない」(注:診断基準というものがあり、医師が変われば病名が変わるという話ではない)、として、それを受けた私は、その病状の深刻さから納得して教授に変わっていただいた、という思い出がある。

ワインの話に戻ろう。ワインの品質は葡萄、土地、水、気温、醸造家・・あらゆる自然と人間のちからを結集し、決してほかに同じものはない、そしてそれを長い間継承するブランドというものがあってこその産物である。心意気とかプライドが携っているのだ。

[今回のワイン]
知多半島東海ワイン・白2010 [原産地:愛知県、東海市]
安曇野ワイナリー、長野県原産地呼称認定・シャルドネ・シュールリー2010[原産地・長野県、高山村]
シャンパーニュ・ロアン・ロセ・ブリュット[原産地:フランス、シャンパーニュ地方]
知田半島東海ワイン・赤2010 [原産地:愛知県、東海市]
シャトー・ベルレール・ラ・ロワイエール2006 [原産地:フランス、ボルドー地方、コート・ド・ブライ地方]
井筒ワイン、長野県原産地呼称認定・メルロー樽熟 2009 [原産地:長野県、塩尻市]
安曇野ワイナリー、雪木花 2010 [原産地:長野県、高山村]

そのようなワインであるならば、決して簡易診断してはいけない。スクリーニング検査だとしてもその検査台に乗せる事すらしてはいけない場合がある。
そもそもスケールとか単位というものは比較するために都合よくこしらえたもの。そして人はその数値や座標軸に可視化されると、他と比較したり、数値を良くしようと翻弄されてしまう結果となる。そこには高品質のワインから高得点へのワイン造りへと意識がゆらぎ、場合によっては焦って添加物を加えたりすることもあるかもしれない。そのような失敗例を何度か傍観している。

食品加工と醸造は違う。日本の発酵文化が少なくなったことを思い出そう。「美味しい」を提示されて、自分の感性で探すことをしなくなり、料亭の味?などに錯覚をひきおこす。視覚から入る情報は条件反射をもたらし、ある狭い領域に感性が、いつの間にか踏みとどまってしまうこともあるのだ。

葡萄栽培農家さん、醸造家、それぞれに敬意を示すなら簡易診断などしてはいけない。ブドウジュースならまだしも・・・。
 
         

そういうことを考えながら、ものすごく不機嫌にワインを飲んでいた・・・。今回のワインは一つしか覚えていない。安曇野ワイナリーの醸造家戸川氏の白ワイン。つくり手のやさしさ。



そしもうひとり癒してくれたのは「岩シェフ」。お料理も今回さらに繊細・完璧を押しつけのないようにメニューに表現する技術。味だけではない・・・ちょっと里芋の発送の段取りで迷惑をかけてしまったお詫びに厨房にあいさつに伺った。ほんの2-3分お話しただけだが、どんな時も相手の立場を思いやる気持ちに満ちあふれている。すでにワインもすすんで、いつもなら陽気なメグさんだが、今晩は肩のあたりの筋肉がピキピキ、目は三角・・・。抑制が取れて噴き出した不機嫌という感情はいただけない・・・お酒の背景には人がいないと、孤独にまみれた寂しい酔いが待っている。



岩シェフのお蔭で持ち直して笑顔でおひらき。

評価や診断は謙虚さを忘れてはいけない。3時間で再学習した。

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